小児の近視抑制・治療

小児の近視とは

目をカメラに例えると、黒目(角膜)と水晶体がレンズ、網膜がフィルムの役割を担っています。物を見るとき、網膜の位置にしっかりピントが合うことで、はっきりと見える仕組みです。近視の場合は、目がリラックスしている状態でもピントが網膜より手前で合ってしまうため、近くは見えても遠くがぼやけてしまいます。原因の一つとして、眼の奥行き(眼軸)が長いことが知られており、特に成長期の子どもは体の発育とともに眼球も成長するため、眼軸が伸びるにつれて近視が進行しやすくなります。

近視が進行する原因

遺伝的なもの

近視には遺伝も関係しており、親が近視の場合、子どもも近視になりやすい傾向があります。
特に、12番染色体と18番染色体に強度近視に関連する遺伝子が存在することがわかっています。こうした遺伝的な影響による視力低下は、早い場合は小学校低学年ごろから見られることが多く、成長とともに近視が進行しやすい点が特徴です。

環境によるもの

環境によって生じる視力低下は、小学校高学年ごろから見られることが多いとされています。

  • デジタル機器の使いすぎ

    スマートフォンやタブレット、携帯ゲームなどを長時間近い距離で使用する生活が続くと、目に大きな負担がかかり近視が進みやすくなります。

  • 近距離での視作業が多い生活

    勉強や読書、マンガ、テレビなどを長時間近い距離で見る習慣が続くと、ピントを合わせる筋肉が緊張し続け、近視が進みやすくなります。

  • 日光を浴びる時間の減少

    外で遊ぶ時間が少なくなり、日光を浴びる機会が減ると、赤色光、紫色の長波長光が当たらなくなると、脈絡膜が薄くなり近視が進みやすくなることが分かっています。

子どもの眼球はおよそ18歳まで成長を続け、とくに12歳までの成長が著しい時期です。この時期に近くを見る作業が多いと、角膜や水晶体の屈折力と眼球の大きさのバランスが崩れ、近視が進みやすくなると考えられています。
実際には、近視の進行には遺伝と環境の両方が関わっていることが多く、どちらか一方だけで原因を特定できるケースは少ないとされています。以前は環境要因による視力低下は中学生以降と考えられていましたが、近年は小学校低学年で眼鏡を必要とする子どもも増えており、原因の一つに近見作業の多さが挙げられます。
勉強や読書は避けられませんが、姿勢や環境に注意することが大切です。寝転んでの読書や暗い場所での勉強は避け、テレビやゲームは画面から適度に距離を取りましょう。特に携帯型ゲームやスマホは目に負担がかかるため、視力低下が始まっているお子様は控えることが望ましいです。ゲームをする場合は30分ごとに休憩を挟むなど、目を休ませる工夫を心がけてください。

近視の進み方と将来リスク

学童期に進む近視

人は生まれた直後は眼が小さく軽い遠視であることが多く、成長とともに眼軸(眼の奥行き)が伸びて正視に近づきます。
おおよそ、生後すぐ約17mm → 3歳で約22.5mm → 13歳ごろに成人と同程度の約24mmに達します。ここで伸びが止まれば正視のままですが、さらに伸びると近視になります(眼軸が26mmを超えると強度近視、屈折でおよそ−6D相当)。
近年は小中学生で視力1.0未満の割合が増加・低年齢化しており、遺伝要因に加えて、近くを見る時間の増加や屋外活動の減少、デジタルデバイスの長時間使用などの環境要因が関与すると考えられています。とくに東アジアでは学齢期の近視・強度近視が著しく増えており、学童期の進行抑制(屋外活動で赤色光、紫光を浴びる・学習環境の見直し等)が重要です。

強度近視の眼は40歳以降にさらに進行し、上昇する病気のリスク

強い近視では、眼球の前後の長さ(眼軸)が長くなることで、網膜・脈絡膜・強膜が引き伸ばされて薄くなりやすくなります。その結果、網膜剥離や緑内障、黄斑部の変性といった疾患が起こる可能性が高くなります。
とくに40歳頃からは、眼球の後ろ側が外側へふくらむ「後部ぶどう腫」が生じることがあり、これに伴い眼軸がさらに伸びて近視が進行する場合があります。加えて、核白内障の進行によって度数が変わり、かすみや見え方の変化が生じることもあります。
強度近視の方は視機能を守るため、視力・眼圧・眼底検査やOCTなどの定期的なチェックが重要です。見え方が急に変わったり、飛蚊症や光が走るような感覚を覚えた場合には、早めに眼科を受診しましょう。

なぜ近視の進行を
遅らせるべきなのか

近視は放置しても自然に改善することはなく、進行すると将来的に生活や健康にさまざまな影響を及ぼします。
そのため、早めに進行を抑えることが大切です。ここでは、近視進行を遅らせるメリットを3つにまとめました。

  • 悪くなった視力は治らない

    近視は眼球の奥行き(眼軸)が伸びることで進行します。一度伸びた眼軸は元に戻らないため、治療の目的は「進行を緩やかにすること」にあります。早期に対策を始めることが重要です。

  • QOL(生活の質)の維持

    近視の進行を抑えることで、強い度数のメガネやコンタクトレンズへの依存を減らし、日常生活を快適に過ごせるようになります。

  • 将来の眼疾患リスク軽減

    強度近視になるのを防ぐことで、緑内障や網膜剥離などの重篤な眼疾患のリスクを下げることができます。

当クリニックの
近視抑制・治療方法

お子様の将来の目の健康を守るために、近視の進行を抑えることを目的とした治療法があります。

オルソケラトロジー(ナイトレンズ)

夜寝ている間に特殊なデザインのハードコンタクトレンズを装用することで、角膜の形を一時的に矯正し、日中は裸眼でよく見えるようにする治療法があります。この角膜の形状変化には、周辺を近視性のデフォーカスにすることにより、眼軸長の延長を抑制し近視の進行を抑える効果もあると考えられています。
日中裸眼で過ごせるため、スポーツなどを活発に行うお子様にも適しており、近視進行抑制に関する多くの研究報告もあります。
ただし、毎晩のレンズ装着とケア、定期的な検診が必要で、自由診療(保険適用外)となります。主に学童期以降で、レンズの取り扱いが可能なお子様が対象です。

低濃度アトロピン点眼療法

近視の進行を抑える効果がある「アトロピン」を、ほとんど副作用が出ない低濃度(主に0.01%や0.025%)に調整した点眼薬を、1日1回使用する方法です。

低濃度アトロピン点眼療法の対象となる方

医師の指示に従い、通院や定期検査が可能な方が対象です。治療は最低でも2年以上の継続が推奨され、基本的には3ヶ月ごとの定期通院となります。
適応については医師の判断に基づき、6歳以上の小児が対象です。

低濃度アトロピン点眼療法のメリット・デメリット

メリット

  • 点眼するだけの方法なので、小さなお子様でも比較的手軽に続けられる。

デメリット

  • 日中の視力はメガネやコンタクトレンズで補う必要があり、視力そのものを回復させる効果はない。
  • 副作用はほとんどありませんが、まぶしさや近くが見えにくくなることが20%ほどある。
  • 保険の適用されない自費診療となる。今後選定医療になると言われている。

低濃度アトロピン点眼療法の治療期間・料金

料金 自費診療:月に4,500円(税込)
治療期間 適応検査:当日、1ヶ月、3ヶ月 以後3ヶ月に1回

多焦点ソフトコンタクトレンズ

遠くを見るための度数に加え、レンズの周辺部には近視の進行を抑える効果を持たせた遠近両用ソフトコンタクトレンズで、日中の装用を想定しています。

多焦点ソフトコンタクトレンズの対象となる方

対象は、小学校高学年以上で、自分でコンタクトレンズの装着・取り外しができる方です。
近視が中等度以上でオルソケラトロジーの適応外の方や、オルソケラトロジーよりも費用を抑えて治療を希望される方に適しています。

多焦点ソフトコンタクトレンズのメリット・デメリット

メリット

  • 日中装用するソフトコンタクトレンズのため、装用感がよく快適に使用できる。
  • オルソケラトロジーと同様に、網膜の周辺部のピントずれを補正することで、近視の進行を抑える効果が期待される。

デメリット

  • レンズのケアと定期的な検診が必要。
  • 使い捨てレンズの費用は自費となる。

多焦点ソフトコンタクトレンズの治療期間・料金

料金 自費診療:費用・発売時期未定
治療期間 適応検査、装用テスト:処方当日、処方後1週間、1ヶ月、3ヶ月 以後3ヶ月ごと定期検査

近視抑制眼鏡:多焦点眼鏡(DIMSレンズ)

中心は単焦点ゾーン、その周囲に+3.5D相当のデフォーカス・セグメントを多数配置し、中心はクリアに保ちながら、周辺網膜に近視性デフォーカスを同時に与える設計です。これにより軸長が伸びにくい環境をつくり、小児の近視進行(屈折の進みと眼軸伸長)を抑制することが目的です。代表製品が HOYA の MiYOSMART。2年間の二重盲検RCTで、単焦点眼鏡に比べ近視進行52%抑制・眼軸伸長62%抑制が報告され、6年の追跡でも効果・安全性が持続、リバウンドは示されませんでした。

近視抑制眼鏡:多焦点眼鏡(DIMSレンズ)の対象となる方

近視抑制用の多焦点眼鏡(DIMS)は、学童期〜中高生で近視が進行している方に適しています。
日中に十分な装用ができ、屋外活動や近業休憩など生活習慣の見直しも併用できると効果的です。オルソケラトロジーが合わない場合や低濃度アトロピンとの併用希望にも対応可能。処方前に屈折・乱視量、眼軸長、両眼視機能等を確認し、装用後は視力・屈折・眼軸長を定期フォローします。

近視抑制眼鏡:多焦点眼鏡(DIMSレンズ)のメリット・デメリット

メリット

  • 装用するだけで介入でき、装用中も通常の視力矯正が可能。
  • 単焦点に比べ、近視進行・眼軸伸長の抑制が報告されている。
  • 中心は単焦点ゾーンで、学校・スポーツなど日常生活に適合しやすい。
  • 屋外活動、近業休憩、低濃度アトロピン、オルソKなどと組み合わせ可能。
  • 基本は眼鏡と同等のリスク範囲。

デメリット

  • 抑制効果の大きさはケースバイケース(乱視量・装用時間などの影響)。
  • 日中の長時間装用が前提で、外す時間が長いと効果が低下する。
  • 周辺デフォーカスにより、初期に違和感や軽いぼやけを感じることがある。
  • 一般の単焦点眼鏡より高価になりがちで、定期フォローも必要。

近視抑制眼鏡:多焦点眼鏡(DIMSレンズ)の治療期間・料金

料金 自費診療: 費用、発売時期未定(2026年6月以降)
治療期間 適応検査、装用テスト:処方当日、処方後1週間、1ヶ月、3ヶ月 以後3ヶ月ごと定期検査

日常生活で気を付けたいこと

近視の進行を抑えるためには、治療だけでなく、日々の過ごし方も大きく影響します。
生活習慣や環境を整えることで、目にかかる負担を減らし、今ある視力をできるだけ保つことにつながります。
お子様の将来の見え方を守っていくためにも、学校・ご家庭の両方で意識して取り組んでいくことが大切です。

  • 屋外活動

    1日あたり1~2時間ほど外で過ごす習慣を取り入れることは、近視の進行を遅らせるうえで効果的とされています。
    特に、太陽光に含まれるバイオレット光(360~400nm)を十分に浴びることがポイントです。

  • 適切な近業距離

    本やタブレットに集中すると、つい顔が近づきがちです。
    読書や画面を見るときは、目から30cm以上離す距離を保つよう意識しましょう。

  • 休憩

    読書・勉強・ゲームなどの近くを見る作業が続いたときは、20分に一度を目安に、20秒ほど20feet(6m程度)遠くに視線を移して目をリラックスさせましょう。

  • 明るさ

    部屋の明るさを十分に保つことも大切です。
    電気スタンドを使う場合は、非利き手側の前方に置き、光が直接目に入らないように角度を調整しましょう。フード付きのスタンドで光の向きをコントロールすると、より目への負担を軽減できます。

  • 姿勢

    椅子には深く腰掛け、太もも全体で体重を支え、足の裏がしっかり床につく高さに調整しましょう。
    足が届かない場合は足台を活用し、背中が背もたれに届かないときはクッションを入れると姿勢が安定します。
    両腕を軽く机に乗せたときに肘が直角になる高さに机を合わせると、無理のない姿勢で作業が続けやすくなります。

  • 規則正しい生活

    夜更かしが続くと、日中の屋外や明るい場所で過ごす時間が減り、代わりにテレビ視聴や暗所・狭い空間での時間が増えて、近視が進みやすい環境になりがちです。
    睡眠不足や生活リズムの乱れはホルモンバランスにも影響しますが、屋外で太陽光を浴びて体を動かすことは睡眠のリズムを整える助けになります。とくに成長期のお子さまでは、早寝早起き+朝食の徹底だけでも有効とされています。

よくあるご質問

Q
近視は治りますか?
A

残念ながら、一度伸びてしまった眼軸長を元に戻すことはできません。しかし、オルソケラトロジーや低濃度アトロピン点眼などの治療により、近視の進行を抑制することは可能です。早期から治療を始めることで、将来の強度近視を予防できます。

Q
オルソケラトロジーは何歳から始められますか?
A

一般的には5歳以上であれば治療可能です。ただし、レンズの取り扱いができることが条件となりますので、お子様の成熟度によって判断します。適応検査で詳しく評価いたします。

Q
オルソケラトロジーと低濃度アトロピンは併用できますか?
A

はい、併用可能です。両方を組み合わせることで、より高い近視抑制効果が期待できます。
お子様の状態に応じて、適切な治療法をご提案いたします。

Q
低濃度アトロピン点眼に副作用はありますか?
A

0.025%という非常に低い濃度ですが、まれに瞳孔散大があります。しかし、長期的に続けると消失します。
アレルギー反応が起こることもありますが、その場合は使用を中止します。

Q
近視予防のために親ができることは何ですか?
A

屋外活動の時間を増やす、適切な照明環境を整える、長時間の近業作業を避ける、定期的な眼科検診を受けるなどが重要です。
また、スマートフォンやタブレットの使用時間を制限し、適切な距離で使用するよう指導してください。

Q
治療費用はどのくらいかかりますか?
A

オルソケラトロジーは自費診療となり、初期費用(検査・レンズ代)で両眼20万円程度、その後の定期検査とレンズ交換費用が必要です。
低濃度アトロピン点眼も自費診療で、月額4,500円程度です。詳しくは費用ページをご確認ください。

Q
オルソケラトロジーのレンズはどのくらい使えますか?
A

適切なケアを行えば、2〜3年程度使用できます。ただし、レンズの状態やお子様の目の成長に応じて、定期的な交換が必要です。
大人の場合は度数が変わらないので、5年以上使用できます。

Q
近視が進行しやすい子どもの特徴はありますか?
A

両親が近視の場合、長時間の近業作業が多い場合、屋外活動が少ない場合などは、近視が進行しやすい傾向があります。
また、低年齢で近視が始まった場合は、進行が早い可能性があります。

Q
治療を始めるのに適切な時期はありますか?
A

近視が進行し始めた早期に治療を開始することが最も効果的です。一般的には、小学校低学年から中学年(6〜10歳頃)が治療開始の適齢期とされています。まずは適応検査を受けて、お子様に適切な治療時期を相談しましょう。

Q
スポーツをしている子どもでも治療できますか?
A

はい、むしろスポーツをしているお子様にオルソケラトロジーは適切です。日中は裸眼で過ごせるため、スポーツ中に眼鏡やコンタクトレンズを気にする必要がありません。水泳などの水中スポーツでも問題なく活動できます。